適刊・近衛虚作

喀血劇場主宰・近衛虚作(このえ・うろつく)がつれづれに侍るままに、由無し事ども書きつくるなり

雪の演劇祭2015で考えたこと - 観劇/コメント篇 -

今更ながら、すごくだらだらとした文章がしばらく続く気がする。

3月6日

僕が西和賀についたのは19時過ぎ。
本当は昼に着いて、稽古を見学したかったのだが、人にはいろいろと事情がある。
観光協会の高橋いくみさんにお出迎えしてもらい、
「いいですいいです。自分で払います」と断りながらも、カップヌードルをおごられ、
いざ銀河ホールへ(JR北上線ほっとゆだ駅から車で1分)。

半年ぶりに会う現地の人々に挨拶しつつ、
演劇とダンスの三団体の稽古を、ほんとにちょっとだけチラ見。
そして舞台上に出てた楽器で遊んでたら、旅館へのバスに乗り遅れる。

ふかふかの布団でぐっすり寝る。

3月7日

それぞれの団体の発表日であり、
コメンテーターとしての本番日でもある。
劇場入りしても自分が公演するわけじゃないので、居場所がない。
うろうろする。
福島県福島市の劇団、シア・トリエ(旧:満塁鳥王一座(まんるいとりきんぐいちざ))代表の
大信ペリカンさんと、
西和賀高校3年生の前生徒会長と、
西和賀町教育委員会教育長と対面。
僕を含めた4人が本日のコメンテーターである。
ペリカンと高校生と教育長がいる。ばか……な……。

観劇

・Art unit NANUK
稽古をチラ見したときから、「若そう」と思ってた。
本番でも若かった。
場面場面の絵面はきれいなんだけど、それがうねりになっていかない。
わっと盛り上がって、しぼんでしまう。
連続ドラマの間が1週間あいてしまうみたいな。
少し意地悪な言い方をすると、知識に実際がついていってない感じがする。
あるいは、衝動に理性がついていってない。
美的センスが致命的に欠けてる僕からすると、うらやましいところもありつつ、
見せ方にはやはり年長者である僕のほうが一歩先を行ってると思い、
とても安心した(コメンテーターとして致命的に人間が小さい)。

・今imaいま
ダンスである。
しかし、実演中に普通にセリフが出てくる。
このユニットの最大の面白味はギャップだと思った。
ダンス部分とセリフ部分のギャップ、
不吉なことを感じさせる雰囲気と、セリフとのギャップ。
一番面白かった瞬間は突如セリフが英語になる場面。
「え、なんで?」っていう衝撃。衝撃を受けながらニヤニヤする僕。
そこら辺のずれを自覚して武器にしようとすれば、強そうだという印象。
実演後の講評で作り手の話を聞き、それでやっと理由がわかった。
なぜ英語なのかわからなかったのは僕だけじゃないはずと思い、
とても安心した(コメンテーターとして致命的に人間が小さい)。

・銀鮭(スペアレ産)
結構やられた。結構っていうか、やられた。
前の2団体は「1週間の合宿」という枠の中で苦しんだ部分が見て取れたが、
このユニットはそういった破綻が見えてこない。
抑えるところはしっかりと抑え、押えるところはしっかりと押さえた秀作。
かわいらしさとまぬけさを前面に出すことで、業が生々しく映える。
「あっ、これは喀血劇場だ!」(何様だよ)と声が出そうになった。
僕が今までこの合宿事業で見た中で一番好みで、一番よかった。
この演出家って何歳なんだろうとジリジリした。
あとからわかったことだが、演出の中込さんは同学年。
とても安心した(コメンテーターとして致命的に人間が小さい)。
中込さんの今後の公演を絶対に見に行かねばと思った。
(中込さんは普段、「鮭スペアレ」という団体で活動している)

講評・座談会

全団体の公演終了後、講評とコメンテーターの座談会へ。
ここでの話は、各団体の作品に関するものに加えて、
西和賀という町で合宿しながら作品を作ることの意義や、
町が作り手を受け入れる意義、
これからの合宿事業の在り方など、話題は盛りだくさん。
僕からは、自分が合宿したからこそわかる話をメインにしゃべった。
何を話したか正直あまり覚えていないんだが、多分以下のようなこと。
・つい稽古しなきゃと思っちゃって、町の人との交流するのって難しいよね
・合宿している学生たちの足となる車がもっとあったほうがいい
・合宿期間中ずっと一緒にいるとつらい。逃げ場も必要
・実行委員だけでなくほかの町の人の協力が得られれば、もっと広がりが持てる
・普段自分たちが見せる客層と町の人は違うということをもっと意識してもいい

……しゃべったよな?

印象的だったのはコメンテーターのうち最年少の前生徒会長が、
とてもしっかりした内容の話をしていたこと。
しっかりしてはいるんだけど、でも、それって本当に本当?と
勘ぐってしまうのが僕の性格の悪いところだ。
彼は大学入学を期に町を出るが、いつかは町に戻ってきたいと言った。
多分、そのこと自体にうそはないんだろう。
しかし、町は2040年に人口が3000人を割るという試算がある。
岩手県下で最悪の人口減少率だ。(2014年5月 日本創生会議発表)
町でも話題になっていたので、前生徒会長はこのことを知ってるはず。

彼らが大学を卒業するまで最短4年。院に進めば6年。
よそで就職すると、帰ってくるのはさらに遅れる。
要は、彼らが帰ってきたいという町を残すためには、
彼らよりも上の世代が行動を起こさないといけない。
世代交代なんか待ってたら恐らくタイムアウトだ。
だから前生徒会長の町に戻ってきたいという思いが本当なら、
「自分がどうするか」という言葉の裏に、
「おまえら、ちゃんと戻ってこれるようにしてくれよ」という本音が
あるのではないかと勝手に類推してしまうのでした。

そして穴掘り/すもう篇に続く。書ければね。